ヘロドトスとトゥキュディデスの歴史認識の4つの違いとは?

ヘロドトスとトゥキュディデスの歴史認識の4つの違いとは?

ヘロドトスは、古代ギリシアアケメネス朝ペルシアとの間で行われたペルシア戦争を中心に、この時代の歴史について詳しく書いた歴史家です。

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ペルシア戦争って何だよ?

と思った方は、

ぜひこちらの記事を参考にして下さい。

ペルシア戦争のような大きな出来事を書いた歴史家ヘロドトス。そんな彼についても分かっている事があるので、気になる方は

こちらの記事も読んでみて下さい。

ここでは、ほぼ同時期にヘロドトスとよく比較されていた、トゥキュディデスとの歴史認識の違いについて詳しく解説して行こうと思います。果たして、その違いとは一体何なのか?それでは、詳しく見て行きましょう!

ヘロドトスへの批判

ヘロドトスは「歴史家」として広く知れ渡っていますが、一方で議論の種となったり批判の的となったりしています。それには、こんな以下の理由があります。

  1. でたらめなエピソードをむやみに掲載している
  2. 余談や脱線があまりに多く、全体構成などがアンバランス
  3. 「聞いたままに記す」というその姿勢も、正確さを追求しないための言い訳

具体的な例もあります。著書『歴史』はペルシア戦争をテーマにして書いたにも関わらず、その前史である各国の神話・伝説・歴史について第5巻まで長々と続きます。そのあまりの長さと

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これ、本当に事実か?

と考えてしまうほどの話が数多く掲載されていることが批判の対象となっています。

このような批判は、すでに古くから行われていました。ヘロドトスを「歴史の父」と呼んだキケロの文章には、

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歴史の父であるヘロドトスには無数の作り話があるが

というものがあります。他にも、アリストテレスはライオンの出産についてのアラビア人の話を

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ふん、馬鹿げている

と言っています。

ヘロドトスとトゥキュディデス

ヘロドトスが批判される度に比較して名が挙がるのが、トゥキュディデスです。彼もまた、同じ古代ギリシアの偉大な歴史家として知られています。

トゥキュディデスは使用する史料の選別を厳密に行う「実証的」な人物として有名です。

トゥキュディデスの『歴史』

そんなトゥキュディデスが、彼の著書『歴史』で、このように書いています。

このように昔の状況は、私の究明したところでは以上のようなものであった。だが、それぞれの証拠を次々に信じることは困難である。それというのも、自国のことであっても、過去の事がらとなると、その風説を人々は遠国の場合と同様に、無批判に受け容れあうものだからである。

真相の究明は多くの人々にとってこのように安易なものであって、むしろ俗説に走りやすいのである。

なので、決して詩人たちが事件について誇張して賛美しているものとか、物語的な歴史家たちが語るものは信じてはならない。これら歴史家が物語ることは検証不可能であり、その大部分は時間の経過のせいか物語的要素に圧倒されており、信じがたいのである。

また、戦争についての事実については、偶然に出会った人から聞いた通りに、自分の思われた通りに記述すべきではなく、自分が遭遇して目撃した場合でも、他人から聞いた場合でも、それぞれについて可能な限り厳密に検討した上で書くべきだと考えた。

ところが、それぞれの事件に遭遇した人々でも、同一の事件について同じことは語らず、アテナイとスパルタいずれかに対する好意や記憶の程度によって違ったから、事実の確認には苦労を重ねた。

それ故に、本書は物語めいていないので、おそらく聴いてあまり面白くないと感じられるであろう。これは一時の聴衆の喝采を争うためではなく、永遠の財産として書きまとめられたものである。

トゥキュディデス『歴史』巻1§20-23、藤縄訳(一部改変)

ヘロドトスとトゥキュディデス

このトゥキュディデスの記述は、ヘロドトスの執筆姿勢に対する批判と考えられています。ここまで言われてしまうヘロドトスの書いた『歴史』の内容が気になりませんか?そんな方は、

こちらの記事もぜひ参考に読んでみて下さい。

ヘロドトスが使用した「ヒストリエー(調査・探求)」ではなく、トゥキュディデスは「ゼーテーシス(追求・究明)」という用語を使用しました。それがヘロドトスに対して

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批判的姿勢があったんじゃない?

という意見もあれば、

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先人に遠慮したんじゃない?

と意見は分かれますが、いずれにせよヘロドトスを意識したことは間違いないようです。

それぞれの執筆姿勢の違い

また、ヘロドトスがしばしば1人称で語るのに対し、トゥキュディデスは客観性を重視してか3人称で語ることを徹底しました。本人が直接関わったことについても3人称で記述しています。

このようなトゥキュディデスの執筆姿勢は、

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厳密・公正・客観的

であるという高い評価がされています。そのため、ヘロドトスが「歴史の父」と呼ばれたのに対して、トゥキュディデスは「実証的歴史学の父」「科学的歴史学の祖」と呼ばれました。

現代のそれぞれの評価の違い

古代では、この実証的なトゥキュディデスと比較して、ヘロドトスの評価はかなり厳しかったとされています。

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しかし、このような評価は今日ではかなり変化してるようですよ!

なぜなら、ヘロドトス情報の出所や種類を読者に提供し、かつ複数の違う意見を並べて判断を委ねるのに対し、トゥキュディデスはこうした情報源自体を読者に提供することなく、彼自身が複数の情報を取捨選択して辿り着いた真実のみを提供しているからです。

現代の歴史学では、結論に辿り着くまでの情報の出所を確認して、複数の情報を比較検討して結論の裏付けを行います。このため、現代ではトゥキュディデスとヘロドトスの比較は必ずしも行われないのです。


参考:ヘロドトス