
『マハーバーラタ』は古代インドの宗教的、哲学的、神話的な叙事詩です。
ヒンドゥー教の聖典の中でも重視される物の1つです。
『ラーマーヤナ』とともにインド二大叙事詩とされ、インド神話を構成する重要な文献の1つです。
また、世界3大叙事詩の1つともされていて、他の2つは『イーリアス』『オデュッセイア』です。
この記事では『マハーバーラタ』をわかりやすくざっくりあらすじ(内容)を紹介していきたいと思います。
マハーバーラタとは?
『マハーバーラタ』はバラタ族の物語という意味です。
元は「バーラタ」だけでしたが、「マハー(偉大な)」が後からつきました。
パーンドゥ王の息子の5人の王子(パーンダヴァ)とその従兄弟であるクル国の100人の王子(カウラヴァ)がクル国の継承を掛けて大戦争します。
原本はサンスクリットで書かれていて全18巻あり100,000詩節、200,000行を超えるとされています。
これは聖書の4倍の長さに相当します。
物語では古代インドにおける以下の人生の四代目的が語られています。
- ダルマ(法)
- アルタ(実利)
- カーマ(性愛)
- モークシャ(解説)
マハーバーラタの登場人物
盲目王(ドゥリタラシュートラ)
生まれつき目が見えないため、跡継ぎを決める際に

盲人は王になれない
とクル国の首相から言われてしまい、王位を弟のパンドゥに譲ります。
しかし、後に王位に対する執着心が生まれていきます。
盲目王は100人王子の父親です。
クル国の100人の王子(カウラヴァ)
盲目王の100人の子供で奇妙な生まれ方をしています。
100人の王子の母親は子を身ごもった時、2年間も子供が生まれませんでした。
そして彼女が苦労して生んだのは、鉄のように硬い肉塊でした。
母親はそれを捨てようとしましたが、聖者が現れて止めてしまいます。
聖者は人々に指示し肉塊に冷水を注がせ、なんと肉塊は100個の小さな塊に分かれました。
さらにそれをギーというインドの乳製品で満たした壷に1つずつ入れ、保管しました。
時が満ちて、驚くことにその壷の中から100人の王子たちと1人の娘が誕生しました。
長男のドゥルヨーダナは邪悪で嫉妬深い性格から5人の王子と対立し、クルクシェートラの戦いを引き起こしたと言われています。
5人の王子(パーンダヴァ)
マハーバーラタの主役の5人の王子です。
パーンダヴァはパーンドゥの子たちという意味でパーンドゥは盲目王の弟です。
5人王子の詳細は以下になります。
- ユディシュティラ:第一王妃の長男
- ビーマ:第一王妃の次男
- アルジュナ:第一王妃三男
- ナクラ:第二王妃の双子の息子の兄
- サハデーヴァ:第二王妃の双子の息子の弟
形式的に盲目王の弟パーンドゥの子供ですが、盲目王の弟は「女性と交わろうとすると死ぬ」という呪いによって女性に近づくことが出来なかったので、第一王妃と第二王妃は神々との間に子供を授かったのです。
なので、5人の王子はなんと人間の王妃たちと神々が親なのです。
カルナ
第一王妃がパーンドゥと結婚する前に太陽神との間に産んだ子供です。
カルナは5人王子と敵対する100人王子側の中心人物です。
優れた弓の使い手で5人王子の1人アルジュナを宿敵としています。
クリシュナ
ヒンドゥー教の神でありヴィシュヌ神の化身とみなされています。
マハーバーラタの中ではヒンドゥー教の聖典の1つとして「バガヴァッド・ギーター」にて5人王子のアルジュナの導き手として登場します。
この時クリシュナは神への献身的な愛を説きます。
マハーバーラタのあらすじ
盲目王の弟のパーンドゥは5人の子供を得て幸福に暮らしていました。
しかしある日、パーンドゥは第二王妃と散歩している時に薄着姿の第二王妃に欲情して抱きしめてしまいます。
「女性と交わろうとすると死ぬ」という呪いによってパーンドゥは死んでしまいます。
パーンドゥ長男のユディシュティラは幼かったため、王位は盲目王に移ります。
盲目王は自分の長男のドゥルヨーダナを王にしたい気持ちを抑え老人になってから王権を弟の長男に返します。
その結果、100人王子の長男は嫉妬で5人王子を罠にはめて殺そうとします。
100人王子の長男ドゥルヨーダナは5人王子のアルジュナやビーマの卓越した武術に悩み、兄弟のカルナや叔父と共に5人王子の殺害を何度も試み失敗しています。
5人王子は加害を公言しませんでした。
市民たちは5人王子を高く評価し、

パーンダヴァの長男であるユディシュティラは若年ながら老成しており、真実の人で慈悲深い人である。即位すれば5人王子と100人王子の大叔父と盲目王とその息子たちを尊敬し、数々の恩恵を与えてくれるであろう
と広場や集会場に集まって言いました。
この言葉にドゥルヨーダナは激しく嫉妬し、

このままでは我々は永遠に王位継承から外され、世間に人々に軽蔑されてしまいます。我々が苦しむことのないよう、速やかに対処してください
と盲目王に進言します。
盲目王は一度は否定しました。
しかし、長男のドゥルヨーダナが名誉と財物で臣下を釣り、5人王子を王都から追い出すことを盲目王に提案し盲目王はそれを受け入れてしまったのです。
さっそく100人王子は、燃えやすい素材を用いて宮殿を建てさせ、そこに5人王子を住まわせて火を付けて殺そうとします。
しかし、5人王子は賢い伯父から警告を受け鉱山労働者にトンネルを掘らせていたので安全な場所に逃げ込み、身を隠すことができました。
ドラウパディーの花婿選び
パンチャーラ国の王のドルパダは、古代インドの婿選びの祭典を開催しました。
実は5人王子のアルジュナと結婚させようとしていて、5人王子の三男のアルジュナ以外には引くことができない強弓を用意してました。
この弓を引いて的を射抜いた者が娘のドラウパディーと結婚できることになっていました。
逃亡中であった5人王子もバラモン(バラモン教やヒンドゥー教の司祭)に変装して婿選びの場に入りこみました。
そして誰も弓を引くことができなかった時にアルジュナが立ち上がって弓を見事に引き絞り、的を射抜くことに成功しました。
5人王子は花嫁のドラウパディーと一緒に母親(第一王妃)の待つ隠れ家に戻りました。

(ドラウパディーを)得てまいりました
と5人王子は母親にそう報告しました。
ところが母は彼らがいつも通りに托鉢(たくはつ)して施物を集めてきたのだと思い、

兄弟の皆で等しく分かち合うように
と5人王子に言いました。
母親は後から花嫁のドラウパディーを見てとんでもないことを言ってしまったと後悔し、ドラウパディーの腕を引いて長男のユディシュティラに相談します。

勝ち取ったアルジュナが妻とすればよい
と長男のユディシュティラは述べましたが三男のアルジュナは母親の言葉を重視して、

まず長男がドラウパディーと結婚し、その後に他の兄弟も彼女と結婚すべきです
とアルジュナは主張しました。
この時、長男のユディシュティラは以前聖者が訪ねてきた時に

ドラウパディーは前世の因縁によって5人の夫を持つ運命を持って生まれてきた
と聖者が話していたことを思い出し、アルジュナの主張を受け入れることを決心しました。
サイコロ賭博事件と5人王子の追放
5人王子が王国に帰還した時に、100人王子の長男ドゥルヨーダナは以下を100人王子側に提案しました。
- 5人王子の仲をバラモンを用いて決裂させる
- 妻であるドラウパディーを怒らせ仲違いさせる
- 次男ビーマを暗殺する
一方、協力者のカルナは長男ドゥルヨーダナの意見を却下し武力によって5人王子全員を倒すことを提案します。
しかし、クル国の家臣たちはこれを良しとせず5人王子との講和のため、領土をそれぞれ分割することを盲目王に提案し、盲目王はこれを受け入れたのです。
そして、以下のように領土が決まりました。
クル国の首都ハスティナープラ:100人王子の長男ドゥルヨーダナ
辺境の地カーンダヴァプラスタ:5人王子の長男ユディシュティラ
5人王子の長男ユディシュティラは不毛の地を栄華極まる土地へと開拓することに成功しました。
そして、ユディシュティラは諸王が憧れる世界皇帝の即位式を行い権勢を極めます。
100人王子の長男ドゥルヨーダナはその即位式の豪華さに圧倒され嫉妬し、蒼白となりました。
そんな時に100人王子の伯父が

賭博に長けた私なら、容易に5人王子の長男から全てを奪うことができる
と言い100人王子の長男のドゥルヨーダナを励ましました。
ドゥルヨーダナは叔父と共に盲目王を説得し、5人王子をサイコロ賭博の場に招待させました。
ドゥルヨーダナは自らの代わりにイカサマに長けた叔父に5人王子の長男のユディシュティラの相手をさせました。
5人王子の長男ユディシュティラは以下の物を賭けました。
- 財産
- 領土
- 兄弟
- 妻のドラウパディー
結果、賭けられた全ての物を100人王子の長男のドゥルヨーダナは奪い取ったのです。
その後、盲目王の計らいによって賭けられた全ての物が5人王子の長男ユディシュティラに返還されました。
しかし、100人王子の長男ドゥルヨーダナは

敗者は12年間森に住んだあと、1年間正体を知られることなく隠れて暮さねばならない
という条件を挙げ、再び5人王子の長男ユディシュティラをサイコロ賭博に誘います。
叔父の詐術によって彼を打ち負かし5人王子を森へ追放することに成功しました。
100人王子の長男ドゥルヨーダナは目論見の成功に有頂天になっていましたが、この暴虐は5人王子たちの怒りを買ってしまうのです。
5人王子たちは以下のことを誓いました。
- 次男ビーマと双子の兄ナクラは100人王子たちを殺す
- 双子の弟サハデーヴァは100人王子の叔父を殺す
- 三男のアルジュナはカルナを殺す

貴様(ドゥルヨーダナの弟)とドゥルヨーダナは必ずおれが殺してやる!
とビーマは言いました。

このおれの矢でカルナとその部下全員をあの世へ送ることを誓うぞ
また、アルジュナもこう言い放ち、王国を立ち去っていきました。
バガットギータ(神の歌)
この後に戦争となりますが、戦争直前に親族同士が殺し合い、師を殺すという罪悪感に耐えきれなくなった三男のアルジュナは、戦を放棄しようとします。
この時アルジュナは導き手であるクリシュナに助言を求めます。
「バガヴァッド・ギーター」と呼ばれるクリシュナとアルジュナの問答はヒンドゥー教の聖典の1つであります。
クリシュナはアルジュナに武器を手に取って戦うように説得します。
クリシュナは下記のようにあらゆる説得を行いました。
- 偉大なヴィシュヌ神の姿をアルジュナに見せる
- 戦争でアルジュナに討たれた者は天界へ至ることを説く
- 王子としてのダルマ(義務)について説明
- 様々な哲学的な概念ついて語る
アルジュナは遂に決心しますが、この後も何度も戦争を避ける素振りをみせ、クリシュナを困らせました。
この後の戦争では、アルジュナをクリシュナが率先して守ったりと様々な場面でアルジュナはクリシュナに救われています。
クルクシェートラの戦い
サイコロ賭博の約定通りに5人王子は13年間の追放を満了しました。
5人王子が戻ってきた際に、100人王子の長男ドゥルヨーダナは5人王子へ一切の領土を返還することを拒むのです。
さらに下記もすべて拒絶したため、クルクシェートラの戦いに至ってしまいます。
- クリシュナによる和平交渉
- カルナの母(アルジュナの母)によるカルナへの説得
- 大叔父やクル国の長老達が100人王子の長男ドゥルヨーダナを説得
戦争はクルクシェートラで起こった為、クルクシェートラの戦いと言われています。
戦争には諸国の王らが100人王子の陣営と5人王子陣営に分かれて戦いました。
100人王子側の軍が十一軍団あったのに対し、5人王子側は七軍団という劣勢の中、戦いが始められました。
18日間の悲惨な戦闘の末、戦いは5人王子側の勝利に終わりました。
この戦いで100人王子は全滅しました。
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