『クリトン』で語るソクラテスの考える「国法」について解説

『クリトン』で語るソクラテスの考える「国法」について解説

死刑判決が決定したギリシアの哲学者ソクラテスにクリトンが脱獄の提案をしにくるところを描いているプラトンが著した『クリトン』。

このクリトンとの対話の中で、ソクラテスの『国家』や『国法』に対する考え方が伺えます。

こちらの記事では『国家』と『国法』に焦点を当てた部分を要約していきたと思います。

『クリトン』の内容

『クリトン』の前半部分はこちらの記事にて紹介していますので、よろしければこちらから読んでいただけたらと思います!

不正とは何だろうか?

ソクラテス画像
そもそも不正とは何かを考えてみよう。私が思う不正とはどんな状況であっても故意に行ってはならないものであり、それは常に悪であり、恥ずかしいことである。クリトン、どう思う?
クリトン画像
私もそう思うよ
ソクラテス画像
もし自分が不正を受けたからと言って自分が不正をしていいという理由にはならない。どんな人に対しても不正に復讐したり、わざわいを加えたりしてはいけないのだ
クリトン画像
うむ
ソクラテス画像
他人に対して正当な権利として認められたことは、自らもまた尊重すべきである
クリトン画像
それはそうだろう
ソクラテス画像
では、ここで質問だクリトン。私が国家の同意を得ずにここから逃亡することは、不正に当たるだろうか?

クリトンは答えられず、黙ってしまいました。

『国家』について

ソクラテス画像
もし国家が人間だったならば、こう思っているだろう。『ソクラテスは法律や国全体を破壊しようとしているんじゃないか。一度決定された罪を無効化・破棄されるなんて、そんなことをしたら国は壊れてしまうのではないか?』そしたら、私(ソクラテス)はこう返答するだろう。『国家こそ私に不正を行って、正当な判決を下さなかったじゃないか!』と
クリトン画像
その通りだ!
ソクラテス画像
しかし、ここで国家の言い分も考えなくてはいけない。彼はこう思っているだろう。『ソクラテスよ、お前は私(国家)が下すいかなる判決にも服従すると誓ったのではなかったか?』と。『人は祖国を敬い、祖国が命じるものはどんなことでも黙って従うべきである。もしその命令が間違っているのであれば正当な方法でその考えを改めさせなくてはならないのだ。決して暴力を用いてはいけない』
クリトン画像
確かに、それはそうかもしれない

『国法』について

ソクラテスは次に国法(国の法律)を擬人化して語りだします。

ソクラテス画像
『私は全てのアテナイ人に引っ越しの自由を与えている。もし、意に沿わないことがあるのであれば、全財産を持って植民地や海外に移住すればいいのだ。誰もそれを禁止したりはしない。つまり、アテナイに留まり続けているということは、私のいうことを理解し、それを守ると約束した者である。私はただ命令を出すだけであって、それを守るか、もしくは命令が間違っていることを分からせるかの二者択一しかないのだ。どちらを選ぶかは市民の自由であるが、不正者はこのどちらも実行しない』

ソクラテスの中の国法の擬人化はまだまだ続きます。

ソクラテス画像
『もし、ソクラテスがここから逃亡したら、非難は凄まじいだろう。ソクラテスはわずかな機会を除いて、ずっとアテナイの町に住んでいて、他国に興味を持たず、七十年間満足していたではないか。それに裁判中に追放刑を希望することもできたのに、それより死を選ぶとはっきり宣言していた。それを今更、撤回するのか?なんと恥知らずな振る舞いなんだ』

そして、話はもし本当にソクラテスが逃亡したら、という段階になっていきます

ソクラテス画像
『もし、ソクラテスが私(国法)との合意を無視して逃亡するのであれば、ソクラテスの友人までもが追放刑(祖国喪失)・財産没収の危険に晒されるだろう。またソクラテスが仮にテーバイ、メガラといった良い国法のある近隣都市に行ったのならば、それらの国の者たちはソクラテスが国法を守らなかった者として疑いの目で見るだろうし、ソクラテスの死刑判決を正しいものだったとするだろう。そんな秩序ある国々や善い人々を避けながら生きたとして、生きがいはあるのか?そして、その中でソクラテスはそんな人々に徳や正義、制度と法律が人間にとって最高の価値であると語るのか?』

そして話はクリトンが最初に逃亡先として提案してくれていたテッセリアに移ります。

ソクラテス画像
『もしくはクリトンの友達を頼りに、テッセリアのような無秩序状態な国へおもむき、脱走話や、国法無視、老人の生への執着といった滑稽話でテッセリアの人々を笑わせ、彼らの機嫌を損ねないように奴隷のように生きるのか?子ども達のために生きながらえたいと言うのなら、そんなテッセリアのようなところに子どもを連れて行って教育するつもりなのか?子どもたちをアテナイに残して友人たちに世話を頼む方がいいだろう。その友人たちはソクラテスが生きて目を光らせている内はちゃんと子どもの世話をするが、死ねば世話をしなくなるほど信用のない者たちなのか?』

脱獄すべきか

最後に国法の擬人化はソクラテスの説得に移ります。

ソクラテス画像
『だからソクラテスよ、我々の言葉に従い、子ども、命も、その他のものも、正義以上に重視してはいけない。冥界にたどり着いた時、自らを弁明できるようにしなければならないからだ。ソクラテス自身も全ての関係者も正義以上の幸せはないのだ。ソクラテスがこのままこの世を去るなら、人々から不正を加えられた者としてこの世を去ることになる。しかし、ここで逃亡してしまうと不正に不正で報いてしまい、私(国法)に対する合意や契約を破ることになる。そうしたら私はお前に怒りを抱くし、冥界の国法も親切におまえを迎えてはくれない。だからクリトンに説得されずに、私の言葉に従え』

そこまでソクラテスが言うと、擬人化の「声」はもう聞こえなくなりました。

ソクラテス画像
クリトン、もし君が反対しても、もう私は何も言わないかもしれない。それでも何か君は私に言いたいことがあるだろうか?
クリトン画像
もう、何も言うことはないよ

クリトンはソクラテスの脱獄の提案を諦めました。

すると、ソクラテスは言いました。

ソクラテス画像
よろしい、それでは我々はこの通り行動しよう。神がそちらに導いて下さるのだから

ソクラテスに聞こえる「声」

ソクラテスは問答の中で後半にかけて、まるで彼がイタコ(霊媒師)になったかのように別人格がしゃべっている部分がありました。

『国家』や『国法』の擬人化です。

これはソクラテスが幼少期の頃からしばしば聞こえるという神的な何かであると考えられます。

ソクラテスが何か良くないことをしようとしている時に禁止や制止のために聞こえる「声」が彼にはあったと言われています。

それは彼に死刑判決が下るまでを描いた『ソクラテスの弁明』にも描かれています。

この『クリトン』は『ソクラテスの弁明』の続編と言われていますので、もしご興味あればこの『ソクラテスの弁明』の記事もご覧いただけたらと思います。


参考:クリトン